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   伊丹で
ー鬼貫の墓に詣づ


折から、折からに、秋もほのくれ
みかんの青い酒倉について
こっそり曲がった墨染寺
月夜がらすも鳴きさうな
わが木槿(鬼貫)翁のをくつきに
旅なればかたはらの鶏頭を
いささか手折りつ、ききぬ
露いっぱいの虫の音
空いっぱいのものゝ寂び音
 
     
  ほのかに暮れかかった秋の夕方、
古い時代のおもかげを残す静かな町並みをそっと通って、
鬼貫翁の墓に詣でる。旅の身のこととて、何の用意もなく、
そばにあった鶏頭の花を少しばかり手折って墓前に供える。
あたり全体は閑寂に静まりかえり、露のおく草にすだく
虫の声を聞くのみ。
空いっぱいにひろがる、このさびしさ。


            出典:詩集『水を歩みて』より
 
 

佐藤惣之助(18901942

「白樺派」の影響を受け、詩集「正義の兜」を発表、俳句・小説・戯曲と多才な作家だった。後にレコード会社の専属作詞家となり、「赤城の子守歌」や「人生劇場」など、ヒット作を世に送った。

 
  
  場所:西の町児童遊園地内


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