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  新雨初晴池水満
恩波風暖楽豊年
遠松迎我如親故
群鳥驚人争後先
暁涙伴来江館月
春望相似洞庭天
廻頭遙顧青厳路
漸隔帝都山復川
 
     
  昆陽池を過ぎ 武庫の山に入る
新雨初めて晴れ 池水満つ
恩波 風緩やかにして豊年を楽しむ
遠松 我を迎えて 親故の如し
群鳥 人を驚かし 後先を争う
曉涙 伴い来る 江館の月
春望 相似たり 洞庭の天
頭を廻らし遥かに顧みる 青厳の路
漸く帝都を隔つ 山復た川

先ほど降ったばかりの雨がやっとあがり、昆陽池には水が満ちて来た。
天の恵みか、風もおだやかに吹き、今年も豊かな稔りを楽しむことであろう。
遠くに見える松は、私を旧知の仲のようにやさしく迎えてくれ、
群がる鳥は(人を驚かすように音を立てて)われ勝ちに飛び立つ。
夜明け方、涙のわかれをした川べりの館を照らしていた月は、
私について西の方へ動き、目の前の春の眺めは
中国の洞庭湖の空もかくやと思われる。
ふり返ってみると、歩いて来た路は、黒々とした岩がずっと向こうまで続いている。
そんな中をいくつかの山を越え、川を渡り、都は次第に遠くなってゆく。


            出典:『明月記』より
 
 

藤原定家(11621241

鎌倉初期の歌人。父の藤原俊成のあとを継いで、歌壇の指導者として活躍した。「新古今和歌集」の撰者のひとりで、歌学歌論や古典研究の面で大きな足跡を残した。

 
  
  場所:昆陽池公園内


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