トップページ

   
 
 
 
 
     
 
   追啓
酒一樽いな河の小魚
右量品共に六月六日夕かた
京着いたし神事之間ニ
合忝存候。しかしいな河の魚ハ
腐れたゝれて臭気
甚しく一向やくニ立ず
四ツ辻へすてさセ申候。捨テニ
行者 鼻をふさき を
肖け候て持出し、飛脚屋より
持参り候男も道 くさきくさきニ
こまり候よし小言を申候。
いか様炎熱き時節
所詮京迄ハ持かたく候。
向後暑中ニ河うをなと
御登セ被下候義 御無用ニ御座候。
折角御親戚にこころを
御つくし被成候ても用に立不申
其上駄賃の費 彼是以
無益之事ニ御座候。御存意之
ほとハ甚かたじけなく候。右の
義申進候事いかゝニ存候へ共
向後御心得のためニ御座候故
無遠慮申進候。以上
            蕪村
    六月十九日
 東 瓦 様

牡丹切て気の
   おとろひしゆふへ哉

     
  追伸
酒一樽、猪名川の小魚、右二つの品物はどちらも六月六日の夕方、京都に到着し神事の間に合い、かたじけなく存じます。しかし猪名川の魚は腐爛して臭気甚だしく、全然使いものにならず、四ツ辻へ捨てさせました。捨てに行く者は鼻をふさぎ、顔をそむけて、小魚を外へ持ち出し、飛脚屋より小魚を持参いたしました男も、途中臭いのに困りました旨、文句を申しておりました。本当にどう見ても暑い最中ですから京都までは持ち難うございます。今後は暑中に川魚など、お送りくださいますことはご無用でございます。せっかくご親切にお心くばりなされましても役にたちませんし、その上運賃費の無駄遣い、あれこれ考えると、無益のことでございます。お気持ちはとても有難うございます。このことを申し上げますことは、どうしたものかとは存じましたが、今後のご参考のためでございますから、遠慮なく申し上げました。       以上
                     蕪村
          六月十九日
山本 東瓦様

丹精こめた牡丹を、よんどころない人の所望で
夕方ようやく思い切って一花切ったが、
その後はぐったり気抜けして、ただぼんやり花を眺めているばかり。

          出典:『自筆書簡』より
 (柿衞文庫蔵)
 
  与謝蕪村(1716~1784)

 江戸時代中期の俳人、画家。摂津の生まれ。20歳ごろ江戸にでて俳諧を学んだ後、関東・奥州を遊歴し、宝暦元年京都にうつる。写実性、浪漫性、叙情性に富んだ俳風で、中興期俳壇の中心的存在となる。晩年は蕉風復興を提唱。画家としては文人画を大成した。
 
  
  場所:有岡センター横

  目次